第62回(5月)定例会報告(メモ)
2013年5月25日 by KISK事務局
第62回(2013年5月)定例会は、21日、赤坂ツインタワーにあるTKPのカンファレンスセンターにて開催、代表のレクトレ事業等の中間報告に続き、早稲田大学教授金岡恒治様の講演「腰痛の予防と改善のための運動」がありました。
1 「健康レクトレ事業の動き」 梶原 拓様 健康医療市民会議代表
自衛策。健康は自分で守るが原則で、しかも勉強、研究から実行と実践が大切です。以前から報告していた本年度からの農林水産省の「都市農村共生・対流事業」交付金制度は、申請期限も近づいていますが、「農村開発企画委員会」と共同で将来をも見込んだ幅広い準備を進めてまいりました。農村に「健康道場」を設けて、運動療法を中心に認知症等の予防や改善をする「統合的心身活性法」を実践したい。また都市の企業と提携して地元の人たちと都市の市民や企業が一緒に楽しく心身トレーニングをする等、農村と都市の幅広い交流と協力の輪の構築のなかで、東京直下型地震などの災害時には避難や疎開の情報交換や対応ができるよう、都市と農村の共存関係を築いていきます。このため、うつ病や親族の認知症等の予防と改善に努力されている都市の企業の皆様ともネットワークを構築し、一体となって農村と都市の方々の健康と農山漁村の幅広い産業や文化を総合的に考え支援する発想での事業を推進したいと考えておりますので、皆様方の幅広い応援と連携を宜しくお願いいたします。
2 「腰痛の予防と改善のための運動」
金岡恒治様 早稲田大学スポーツ科学学術院教授・医学博士整形外科医
梶原代表から、早稲田大学教授でスポーツ医学の権威、オリンピック選手の健康管理の責任者もされている講師から我々の関心の深い足腰の強化と腰痛対策のお話を聴けるのは幸との紹介を受け、若きスマートで重鎮な講師のお話が始まりました。「一生痛まない強い腰をつくる」のが職務。筑波大学で学び、水泳もしていた。整形外科医で専門は脊椎外科、07年から早稲田大学で整形外科及びスポーツドクターも担当。アスリートの腹筋部、体幹深部筋トレーニングを推進し、シドニー・アテネ・北京オリンピックでの水泳選手の健康管理も担当し、前回の北京大会では本部の選手全体のドクターをも務めた。これらの経験を一般市民の腰痛対策の推進に活用している。「腰痛」とは症状をさし病名ではない。腰痛を起こす病気には、レントゲンやMRIなどの画像診断では判別できない「見えない腰痛」は筋肉痛、椎間関節痛、仙腸関節痛、椎間板痛等で全体の8割を超え「非特異的腰痛」とされ強い腰をつくる運動法(メソッド)の活用指導が中心。「見える腰痛」の「特異的腰痛」は全体の2割で治療の必要な腰椎分離症、椎間板ヘルニア、腰椎すべり症、変形性腰椎症、脊柱管狭窄症、腰椎圧迫骨折や腫瘍感染等で、手術を伴う重症の治療患者はRedflagと言われる。川柳に「痛いのに 異常はないと 医者は言う」があるがこれが8割。この「見えない腰痛」への対応は痛み止め薬等が繰り返されるがこれにどう対応するかが問題。「腰痛の原因」は、「骨の問題」と「脳の問題」。椎間板ヘルニアでも、心の持ち方次第で、1か5かの痛さの差がでる。うつ病の人は大きく感じる傾向。骨の問題で体をみると、腰痛の震源地は複数あり「椎間板」「椎間関節」「仙腸関節」。体の前側にある「椎間板」は背骨と背骨の間のやわらかい円盤状の軟骨で、衝撃吸収のクッションの役割。線維の束でできた「線維輪」が外側をおおい、その中に「髄核」というゼリー状のものがある。後ろ側の「椎間関節」は背骨どおしを繋ぐ関節で左右あわせて48ある。関節は「関節包」という膜に囲まれ、中に「髄液」というヌルヌルの液がある。「仙腸関節」は「骨盤」の中で、左右の「腸骨」と腰椎の下の「仙骨」をつなぐ縦に長い左右の関節。見えない腰痛はこれらに刺激が加わって起る。[補注:背骨(脊柱)はブロックを重ねたように繫がり上から頸椎7、胸椎12、腰椎5個で骨盤にある仙骨につながる。脳から出た神経は太い神経の束(脊髄)となり背骨の中央の「脊柱管」を通り各背骨から体の各部に枝分かれし全身に]。
前屈は「椎間板」を抑え、後屈は「椎間関節」を抑えるが、真中に「ニュートラルゾーン(立った姿勢を横から見ると背骨がきれいなカーブを描きお腹と背中の両方から腰椎を支えている痛みのでない状態で、頭の頂点にフックをつけられ吊るされたイメージ。このとき椎間板や椎間関節の負荷は最も小さい)」があり、この三つでバランスを確保し、全体が分担しあって体を支えている。このニュートラルゾーンのキープが大切。椎間板の「髄核」では軟骨細胞が「プロテオグリカン」を生成し、保湿と水分を保つ。これはコンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、ヒアルロン酸、Ⅱ型コラーゲンからなるが、加齢により軟骨細胞は減りプロテオグリカンの生成が減少し、水分が減少。これは軟骨細胞が造るので、サプリメントは沢山あるがそのまま直接にその箇所に入ることはない。それは消化されアミノ酸に分解され全体として新しい生成がなされるので、直接的な効果は疑問だが精神的な効果はあるか。グルタミン酸について国内で初めてのCT検査による効果実験を407人に2.5年間実施したが、膝の形態の変化はみられなかったとされ、外部から直接の働きかけ効果は難しい。80歳の男性の実例で、髄核、体の変化、骨粗鬆症での骨の細胞の減少等をご説明。体のバランスがとれているかどうかが大切。水分が減少すると椎間板が変形し線維輪が壊れる。そこからニュルリが外に出たのが「椎間板ヘルニア」。線維輪の維持と修復の仕組みをみると、軟骨には神経はないが、線維輪の修復のために血管と神経がそこに入ってくる。そして椎間板性腰痛で痛くなる。アンチエイジングは難しいが体のバランスをとることで対応はできる。ギックリ腰・急性腰痛症は激しい痛みを伴う。修復するため血管と神経が入ってきて、坐骨神経を刺激する。椎間板の変形や機能不全が原因で体の後ろに力がゆき、後ろ側の脊椎関節も腰痛になり、椎間関節の離剥もありうる。最近、整形外科医では通常、体を触らない診断の医師が多い。一人5分では無理なのか。レントゲンの説明だけだ。Ledflag段階では対応するが。
「運動療法は自分で実行すべきだ」。3次元CTで椎間関節の変形を御説明。スポーツ選手を10年診るとどこに負担がかかるか判る。負担をかけ続けるのだから。負担を避ける方法が大切。体を安定するため、体を強くしようとして、骨は自ら増殖し変形する。膝や肘も同じ。変形性脊椎症や腰部脊椎狭窄症の対応も大切。関節を使えば体重を支えられる。関節が脊柱側にせりだし、靭帯も厚さをまし、黄色靭帯も肥厚になる。椎間関節が変形。脊椎老化の現れ。坐骨神経症から脊柱管狭窄症へ。対処は後ろの骨を削って広げる。腰痛を年齢的変遷でみると、1椎間板ヘルニア、2腰椎すべり症、3変形性腰痛症となるが、「見えない腰痛」のアスリートでの原因場所の分布は40%椎間板40%椎間関節10%仙腸関節10%不明だ。骨自身には神経はないが骨には「骨膜」という薄い膜があり血管や神経が通っている。「椎間板腰痛」は前屈や座位・くしゃみが痛い、「椎間関節腰痛」は後屈や立位・歩行・臥位で痛い。「仙腸関節」は腰回りの筋肉を鍛えることで骨盤が安定する。骨の周りにキュッと締まった筋肉があり、これが骨を支えることではじめて自立が可能。骨を支えるのに、最も大きな働きをしているのが、背骨に直接くっついている「ローカル筋」だ。腰痛をやわらげるには、ローカル筋のなかでも腰椎や骨盤を安定させるためには「腹横筋」と背中の「多裂筋」のふたつの筋肉を活動させるのが効果的。筋肉は使わなければ弱くなるが、ローカル筋は常に動いていて背骨のコントロールや体のバランス維持に役立っている。私の運動法・メソッドは体の中で眠っている腹横筋と多裂筋に活を入れ、骨と筋肉によりしっかりした体の芯を造り、「強い腰」づくりを目指す。骨盤に関しても腹横筋は骨盤を後傾させる筋力、多裂筋は骨盤を前傾させる筋力になる。「体幹深部筋」を鍛えることが大切だが、「体幹浅層筋」の腹直筋・外腹斜傾筋・脊柱起立筋の強化も行う。また前述の「ニュートラルゾーン」の構えの確立が大切。「多裂筋」は脊椎に直接入っている筋肉で、「腹横筋」は、ちぢむと厚くなるので、腹部を引っ込めると効果的。痛みが止まないときや原因わからないときの治療にも活用できる。
朝日新聞2013-3-24号は日本の腰痛患者は2800万人とする厚生労働省の調査結果を公表。腰痛の治療が必要。ヒポクラテスの「病気は人間が自らの力によって自然に治すものであり、医者はこれを手助けするにすぎない」の考えは正しい。
「体幹ローカル筋力トレーニング」が大切だが、体幹深部筋の運動には・ヨガ・フラダンス・太極拳・スタイビラゼーション・腹式呼吸・丹田訓練等がある。丹田は居合や武術でも重要な視点。競技の現場でも、丹田に力いれて体幹筋トレーニングをしている。泳ぐ前にトレーニングする。NHKの2012年7&8月の「ためしてガッテン」は選手の腹横筋等の訓練を放映。
「ドローイン」。ローカル筋はふつう意識して使うことがないためまずは「ドローイン」というローカル筋肉にスイッチを入れることから始める。『おなかを凹ませる』方法だが、一度そのコツの会得が重要。具体的には仰向けに寝て膝を立て左右の下腹部に指をあてて、腰の骨・腰椎を床に押し付けるイメージでくっつける。そのかたちでおへそを引き込みながら骨盤を後ろに傾けると腹横筋はしっかりと働く。ドローインすると腹横筋は2倍に厚くなる。人間は、特定の部位に意識を集中すると、その筋肉の働きを強めることができる。限界まで筋肉を利用している場面のイメージが大切。筋肉をどう使うか、骨があれば筋肉がなくても歩けるが、「ニュートラルゾーン」のキープは腹横筋と多裂筋の働きによる。普段あまり使っていないし、使い慣れていないが、木登りしていれば使う。会場で講師の指導により「ドローイン」の練習。骨盤の両脇の内側に三本指をいれ、ヘソを引き込む・腹横筋を意識・尻の穴を締めて・呼吸を長く吐きながら、自分の意思で締まらせる。これを毎朝、歯磨きの時に30秒から1分間、対応すると効果的。次いで、一番簡単な「ハンドニー」運動を講師が会員に御指導。手と膝で四つ這いになり背中は真っ直ぐに・まず左手を前に伸ばす・左の腹横筋が働く、次いで右足を後ろに真っ直ぐに伸ばす・右の多裂筋が働く。次は右手を前に左足を後ろに。数回を毎朝の体操にする。さらにレベルの高い「サイドブリッジ」「エルボートウ」のメソッドもある。一回10秒ずつのメソッドだが、ドローインしお腹を引き締めた後での運動だからすごく効果がある。慢性の腰痛の人の体幹深部筋体操の効果のVA社腰痛評価調査では、腰痛5が一年で2.5に、三年で2に、六年で1に平均値でなった。
次いでロンドン五輪の水泳のリレー後の競技出場選手の全員写真・講師もご一緒と個別メダル選手の写真。競泳競技は26名参加、17名が決勝進出、11名11個のメダルを獲得。3位か4位かはすごく士気に差がでる。金メダルはなかったが、これは卓抜した人と運がないと難しい。
「体幹深部筋の機能と効果」。「脊柱の安定」「ニュートラルゾーンの確保」が大切で、1脊柱の傷害予防・腰痛体操、2バランス機能向上・転倒予防・ロコモ対策・競技力向上・下肢外傷予防、3腹囲の減少?・容姿改善・メタボ対策?の効果が。アスリートの運動の各種写真のご披露。1運動によるローカル筋の目覚め2ニュートラルゾーンを意識した構え3適度のウオーキングによる姿勢の慣れ、これで強い腰に改善できる。と体系的で実践的な運動法の理論と指導を締めくくられました。会場の全員がこれはすごいぞ、自分もやらなければと、万雷の拍手喝采が続きました。有難うございました。新著「一生痛まない強い腰をつくる」金岡恒治著高橋書店のご紹介もありました。会場からの質問「腰痛問題への対応は膝なども同じか」関節の安定が周辺の筋肉を強くする、余計な力を使わない体が安定的。「椎間板ヘルニアで大変だったが」痛みは自分の体が戦っている警告で、時期がくれば自然に治る。予防には筋肉トレーニングが効果的。体重を減らしたのは椎間板の負担軽減に良い。「手と足の体操を毎日やっているが」自らの意思で実行することが大切。「変形性狭窄症か、毎朝起きる時に動くと痛いと家族が言うが」起床時に体幹深部筋肉を引き締めること・簡易方法は両側のバンドの位置の下の腰の部分に指を少し入れ腹を凹ませて力を入れ肛門も引き締める・咳をしたときに動くところだ。と適切な御指導。本当に有難うございました。
講師は会場の後部で披露されていたタニタと共同開発の「心身バランス計」で自らの両足と左右片足立ちでの心身バランスの計測をされ、筋肉運動の前後での効果の測定に関心を示されました。
Comments