永田親義「がんは、なぜ生じるか」講談社BLUEBACKS
[著者]1922年鹿児島県生まれ。京都大学工学部卒。福井謙一博士の研究室にて量子化学専攻。国立がんセンター生物物理部長を経て基礎化学研究所評議員。
[著書]「新しい量子生物学」「活性酸素の話」(いずれもBLUEBACKS)
「コメント]がん研究のこれまでの経緯と現状を分かりやすく説明された好著である。がんとは何か、がんを発生させる物質は何か、がん発生のプロセス、メカニズムはどのように考えられるか、よく理解ができる。
注目すべきは、新説の「がん幹細胞説」である。未分化の幹細胞ががん化するという説で、現在のところ主流ではないが、がんが多種多様で、治療も一筋縄では太刀打ちできないことが説明しやすい。がんの薬剤耐性や放射線抵抗性もよく理解できる。がん幹細胞は、ごく少数でがんをつくる強い活力をもっており、これが再発や転移の可能性を高めている。がん幹細胞を標的にした治療法の開発が待たれる。
また酸素ラジカルによる酸化ストレスが、がんの大きな原因になっていることは、がんの予防を考える上で、重視すべきことである。抗酸化剤の活用その他酸化ストレスを軽減することが有効であることが理論的により明らかになれば、がん予防策も一段と効果的になるである。
[ロケーション](位置付け)「健康ナビ」各論C「抗酸化作用」(活性酸素の除去) |
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川村則行「自己治癒力を高める」講談社BLUEBACKS
[著者] 86年東京大学医学部医学科卒。国立精神・神経センター精神保健研究所心身医学
研究部心身症研究室長。研究テーマは、脳による免疫制御機構の解明、およびストレスと心身
症。
[著書]「がんは『気持ち』で治るのか!?」ほか。
[コメント]本書の基本的な考え方は、「人にはすべて『自己治癒力』が生まれながら備わっており、それを『本来の自分からかけ離れた偽物の自分』が抑圧することによって、十分に機能してゆかない状況を作っているということにつきる」「自己治癒力とは、新たに生み出すものではなく、もとからある能力を解放するもの」であるとする。そのことを、できるだけ科学的に説明しようとした労作である。心と体の相関に関心のある向きには必読の書ではないか。むしろ健康とか病気を理解する上で、なるべく多くの方に読んで貰いたい。いろいろと参考になることが多い。
1 がんであることがわかっても前向きな気持ちを失わず、積極的に治療に取り組み、がんに打ち勝とうとした人たちは、生存率が高い。自分の命に主体的に関わることが大事。
2 自己治癒力を目覚めさせるポイント
@ 自分の主人公は自分である。
A 本来の自分に立ち返る。
3 脳が快い状態のとき、免疫力が高まり、自己治癒力が活性化される。このため脳の罰系(苦痛)(例えば、自分を叱る)でなく報酬系(快感)(例えば、自分を褒める)を刺激するとよい。
感情でなく意志によって脳を報酬系で支配してしまうのがコツ。
4 積極的に、前向きに物事を考える「ポジティブシンキング」が大切。
5 信頼できる人にサポートしてもらう。人と人のふれあい、響きあいで自己治癒力が働く。
人間は、自分ひとりでは、生きられない。
6 能動的に休息と気分転換をする。人間は同時にふたつのことはできない。頭の中をひと足さきに、安心、愉快、満足という内容にしてしまえばいい。同時には、不安、不快、不満の念は入ってこれない。
私は、10年以上前から「人体は健康生産工場」と名付け、「恒常性」(ホメオスタシス)「自然治癒力」の活用を強調してきたが、本書は、それを更に進め、人間の脳の働き・意志の力に着目し「自然治癒力」から「自己治癒力」に高められたことに共感し、大いに啓発を受けたことに感謝したい。
がんには、西洋医学によるほか各種の治療法があるが、同じようなケースでも人によって効く場合と効かない場合がある。遺伝子の違いもあるだろうが、個人の気持ちの持ち方次第ということも、あるのではないか。そのような疑問を抱いていたが、本書によって疑問を解くことができた。
「おわり」の項で最後に「もし私が今、病に倒れていたとしたならば、私は「祈り」の力を信じ、祈りを行うでしょう。生きている主体、個人、人間として役に立つものは、「知識」ではなく、それにいのちが吹き込まれた「知恵」なのですから。」と述べられているのが印象的であった。著者のように聡明で謙虚で柔軟な発想ができる研究者が増えてくることを祈りたい。
* ロケーション(位置付け)「健康ナビ」総論A(自然治癒力)B(全人的)C(情報システム)E(自己責任)各論D(心身一如) |
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川渕孝一「日本の医療が危ない」ちくま新書
[著者]川渕孝一(かわぶち・こういち)一橋大学商学部卒、シカゴ大学経営大学院修士課程修了 東京医科歯科大学大学院教授 スタンフォード大学客員教授 専門は、医療経済学、医療政策、医療経営
[著書]「医療改革ー痛みを感じない制度設計を」東洋経済新法社、「病院を使いこなす法」WAVE出版など
[コメント]本書は、医療経済学の観点から、豊富な具体例を挙げながら「よい医療」とは何か、医者と患者の間にあるギャップは何か、現状をどう改善したらよいか、などについて具体的な提案を試みている。医療消費者の患者・市民にとって必読の書である。幅広い情報が集められているので、患者・市民側の「健康医療問題ハンドブック」の役割も果たしている。
本書の最後に、「あとがきにかえて」医療改革に関する具体的な工程表が示されている。ポイントは3点
1 情報ギャップを埋める努力
「医療の受け手」と「医療の担い手」の間に存在する情報のギャップ。医療の受け手に医療機関を選択する情報がほとんどない。医療機関の担い手もお互い同士を知らない。そこで医療機関の受け手には信頼に足る情報を提供する一方、医療の担い手側も情報の共有化を進め、自らの得意・不得意を知ることで、医療機関の再編を促進する必要がある。
2 モラルハザードの阻止
医療保険制度にまつわるモラルハザードを阻止するため、国民医療費の約3割を占める「生活習慣病」に対しては「アメ」と「ムチ」の政策が必要。例えば禁煙補助剤の保険適用とタバコ増税。名医には加算、医療事故リピーター医師には免許剥奪。
「はしご受診」は抑制できない。大病院の横にメディカル・コンプレックス(診療所複合体)、ケア付き住宅の普及。
3 家内産業から基幹産業へ
「家族経営」的色彩の強い医療界を、真の「非営利組織」としてポーポレート・ガバナンスが期待できる組織体に作り変えていく。「質の向上と効率化」。
著者は、「機会の平等」も「結果の平等」もない日本の医療の現状、失望して国境を越える患者の増加傾向など、問題点を指摘し、「医療生産者」中心から「医療消費者」中心に、「公」の支配より「民」の活用を訴えている。
そして「自分の身は自分で守る」、自己責任が問われる時代だと、テーラーメイド・サプリメントの可能性、セルフ・メディケーション普及など提案しされている。また「かかりつけ医」を持つ、病気の前兆を自覚する、病院の探し方、診療科縦割り表示、セカンドオピニオン、医療過誤にも言及しされている。
なお、次のような患者側にとって有益な情報提供もある。
* 「テーラーメイド・サプリメント」を事業化しようとする企業がでてきた。(株)フォルマデザイン
* 2001年、セコム損害保険会社が、がんの自由診療保険「メディコム」の発売。自由診療で受けた入院治療費は全額、直接保険会社から病院へ支払う。セカンドオピニオン医や病院の紹介も、この保険の目玉。
* 「医者にかかるべきと判断される症状」(米国薬剤師会による行動指針)(風邪、インフルエンザ)
1 熱が摂氏38、8度より高い 2 緑がかった、あるいは暗黄色の鼻水が出ている 3 喉が痛み、飲み込んだり呼吸したりするのがひどく困難 4 過剰によだれが出る 5 リウマチ熱の既往がある 6 10日以上咳が続く 7 胸部や肋間部に痛みがある 8 咳に伴って、ゼーゼーしたり、呼吸が速まったり、呼吸困難がある 9 激しい頭痛や難聴がある、あるいは耳から液が出る
* インターネット健康医療情報(ITを駆使して患者本位の医療を)
ニフティの健康情報サイトーインターネット医科大学 http://health.nifty.com/index.jsp
保健同人社の健康相談とWEBコンテンツ http//www.hokendohjin.co.jp/hkd/Jhealth/j−Health_F.html
万有製薬の健康情報 http:/www.banyu.co.jp/kenko_index.html
NTTデータの健康に関する総合サイト http://www.health.ne.jp
女性の健康専門サイト http://www.jfpa_info/wh/
* 病気の前兆
1 「突然、頭をハンマーで殴られたような痛みが走る。頭の中で花火が爆発したような感じがする」という場合は、クモ膜下出血が疑われる。
2 右肋骨下あたりに突然、転げ回るほどの激痛が走ると胆石の疑いが濃厚。
3 「左胸の中央から肋骨にかけて焼けるような痛さで死の恐怖を感じるほど」の痛みを感じると、これは心筋梗塞の疑い。
4 急性膵炎は、突然、上腹部が痛み、次第に強くなる。背中が痛むこともある。
5 「朝、起きたときに手がこわばっている感じがする。膝やひじの関節が痛くなる」という症状が出たら慢性関節リウマチの可能性がある。
6 腰痛持ちでもないのに、腰のやや上の左右、腎臓のあたりが重く、痛みがあるケース。腎盂腎炎が疑われる。子宮筋腫も腰痛が現れる。
7 単なる「めまい」「風邪」「いびき」が命とり 女性更年期障害、メニエール病、突発姓難聴、一過性脳虚血障害、循環器疾患初期、急性肝炎、無呼吸症候群。
8 静かに進行する"怖い病気" 糖尿病、歯周病、がん、「心の病」うつ病、緑内障。
* 「健康保険組合連合会」(健保連、東京都港区)http://www.kenporenーhios.com.
全国病院(三分の一)専門医数、常勤医数、疾病ごと治療法、検査法、手術方式、小児救急、セカンドオピニオン、差額ベッド、高度先進医療などの情報提供。
* セカンドオピニオン紹介サービス 1 中村康生代表「医者がすすめる専門病院」医師中心登録医の紹介 2 がんの標準治療普及を目指すナグモクリニック 3 外科医・土屋繁裕氏病院・有料 4 東邦大学医学部付属大森病院 完全予約制 5 日本医療コーディネーター協会(看護士中心)
* 医師紹介サービス 1 サテーテル 2 法研 3 ティーペック
* 薬の副作用への対処 1 医薬品医療機器総合機構「医薬品副作用被害救済制度」 2 薬剤師会HP 3 厚生労働省HP
「医薬品等安全性関連情報」 4 民間・医薬品監視機構「薬害オンブズマン」HP 5 各都道府県「薬剤情報センター」
[ロケーション](位置付け)「健康ナビ」総論E(自己責任)各論E(早期発見・早期治療)
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竹内薫ほか「あやしい健康法」宝島社新書
[著者]竹内薫(たけうち・かおる) 東京大学理学部物理学科卒 科学作家 [著書] 「99、9%は仮説」光文社新書 「超ひも理論とはなにか」講談社BLUEBACKS
徳永太(とくなが・たかし)医師、医学博士
藤井かおり(ふじい・かおり)日本マタニティビクス協会認定インストラクター、作家
[コメント]アルカリイオン水は効果があるの?マイナスイオンがもてはやされるが?発芽玄米は体によい?漢方薬は体にやさしい?がん体質は遺伝する?ウオーキングって、本当に健康にいいの?などの、巷にあふれる健康仮説を科学作家、ヨガ教師、医師が三人三様に「メッタ切り」にする軽い読み物である。
「いわしの頭も信心から」ということわざもあり、本書の中で触れている「偽薬」(プラシーボ)効果もあり、また条件反射の「パブロフの犬」作用もあり、効く、効かないは個人によって、あるいはケースによって様々ではあるが、いろんな健康仮説を実践する前に一度は冷静に考えてみることが必要ではないか。個々の健康仮説の評価よりも、そのことを本書はアピールしようとしているようである。
私なりの「健康仮説チェックポイント」を披露したい。
1 一つの事で万事 OKというものは存在しない。例えば「ごま」のセサミンは体にいいが、それですべて健康になるわけではない。総合的な視野を持つこと。
2 物事はプラスがあれば裏腹に必ずマイナスもある。太っても痩せても、いずれもプラスとマイナスがある。ぶくぶく太ってはいけないが、ただ痩せればいいというものでもない。
3 過ぎたるは猶及ばざるが如し。限度を越えればプラスがマイナスになる.過度の運動は活性酸素発生の害がある。ジョギングなど何事もほどほどに。
4 精製したもの、成分だけを抽出したものは要注意。食塩、白砂糖も、各種サプリメント・抗酸化剤もしかり。なるべく天然もの自然ものがのぞましい。天然の塩は無数の貴重なミネラルを含んでいる。精製したナトリュームだけでは血圧を上げるだけ。
5 新しいものは様子を見る。多くの人が体験したものは信頼できる。超長期の間、無数の人体実験を経た漢方薬は貴重な人類の資産。西洋医学による新薬の「科学的エビデンス」も大切だが盲信しないこと。幾多の犠牲者がいる。すべて命に関わることには「体験的エビデンス」が欠かせない。
[ロケーション](位置付け)「健康ナビ」総論E(自己責任)各論E(早期発見・早期治療)
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治部真里・保江邦夫「脳と心の量子論」(場の量子論が解きあかす心の姿)講談社BLUEBACKS
[著者]治部真里(じぶ・まり) ノートルダム清心女子大学情報理学研究所講師(量子場脳理論研究)[著書]「添削形式による場の量子論」日本評論社
保江邦夫(やすえ・くにお) スイス・ジュネーブ大学理論物理学科卒、ノートルダム清心女子大学教授(基礎理論物理学研究)
[コメント]宗教とか哲学や心理学でなく量子論物理学によって「こころ」の科学的解明が進みつつある。「こころ」の実体とは「脳細胞のミクロの世界に水の電気双極子の凝集体としてあまねく分布する記憶の要素の全体からたえずわきたつ隠れ光子をも含めた、無限の隠れ光子の集団」であるとする。こういわれても素人には、にわかには理解できないが、脳の中を仮想宇宙船に乗って探検する物語り形式で脳と心の関係を分かりやすく説明しようと試みられている労作である。
要すれば、心は「物質の中にではなく、光の中にあった」。私なりに理解すれば、脳の水の中で光の波動が秩序とリズムを持ち、それが記憶をつくり、心を形成している。「心は記憶の上にのみ存在し、記憶によってのみ存在している」とされる。記憶の生成活動を通じて「心が心を生む」ということであろうか。
光の波動をいかにして「のぞましい秩序とリズム」に向かわせるか。エントロピーの増大で心を崩壊させないか。心のベクトルの方向性と強弱、そのメカニズムの解明と方法論の開発が次なる課題である。宗教、哲学、心理学、分子生物学、東西医学などとのコラボレーションがあって、おそらくは、この先、近い将来、人類の知恵で既に実践されている禅、瞑想、気功、祈り、笑い、イメージ、ポジティブシンキングなどの有効性に体系的・科学的根拠を提供することになるであろう。
[ロケーション](位置付け)「健康ナビ」総論B(全人的)C(情報システム)各論C(心身一如)
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